経営
2020/07/15
飲食店の店舗拡大時には売上は増加するが利益は増加しない(むしろ減少する)いわゆる“踊り場”が存在します。
3~5店舗に店舗が増加した際に起きてくるのが一般的です。この規模になってくると社長がすべての店舗を把握することができなくなってくるからです。
どのようなスーパー経営者でも1日は24時間しかないですし、1年は365日しかありません。今までは全店舗の中身を理解し改善のための指示をできていたのに、その時間が取れなくなってくるのがこの規模です。
社長ができなければ部下にやってもらうしかありません。店長さんに責任と権限を委譲し動いてもらうか、社長の右腕になるマネージャーに動いてもらうかのどちらかが必要となるでしょう。当然、店長やマネージャーには社長ほどの知識も行動力も強制力もないため、店舗の数値は悪くなってしまうことがほとんどです。そのため、“踊り場”に乗っかってしまうのです。
店長やマネージャーに店舗管理を任せるにあたっての注意点をお話しさせていただきます。
店長やマネージャーに店舗管理を任せるにあたって、一番初めに着手することは各店舗の数値情報を理解させることです。現状どこまで数値情報を開示しているかは企業によって異なりますが、多店舗展開が始まったら最低でも売上高・原価率・人件費率・その他の店舗経費・本部費は下記の内容を開示し、コントロールするように指示してください。
・売上高
日別・時間帯別の客単価と客数
・原価率
商品カテゴリー別の原価率
・人件費率
正社員・アルバイトに区分した人件費率
・その他の店舗経費
ほぼ固定費だと思われるので、各勘定科目の必要金額
・本部費
社長や本部スタッフの人件費や本部で使用しているコスト(直接店舗に紐づかない経費)
多店舗展開企業は店舗ごとの業績を把握するため、店舗別に損益計算書を作るべきだと思っています。これがないと業務改善の検討や撤退判断、スタッフの評価ができなくなってしまいます。
いろいろな企業の店舗別損益計算書を見せてもらうと、本部費が考慮されていない(店舗の直接コストだけが経費になっている)ものが多くあります。店舗単体の損益計算書で利益が出ていても、全店舗の利益の合計が本部費の額を超えなければ企業としての利益は出ていないこととなります。
店長が店舗単体の損益計算書を見て「ウチの店舗は利益を出している」と勘違いさせないために、各店舗の損益計算書に本部費も加え、負担すべき本部費を考慮したうえで利益が出ているのかを把握してもらいましょう。
ただし、本部費は各店舗に直接紐づかないコストなので、その総額を各店舗に按分する必要があります。その按分のための基準ですが、私は各店舗の客席数に応じて按分するのが妥当だと考えています。
この形式の損益計算書を月別で2年分は開示し、現状分析をしてもらってください。
月別で開示することで、定期的にかかるコスト・不定期にかかるコストの区分や、売上高の増減と原価率・人件費率の関連性、その店舗の売上高の季節変動等を理解してもらうことが店舗管理の第一歩です。
店長やマネージャーの中には、今回初めて損益計算書を目にするといった方もたくさんいることかと思います。
書類を渡すだけでは、何をどうしていいかがわからないことでしょう。
まずは損益分岐点と安全余裕率の計算をさせてください。(損益分岐点・安全余裕率の計算はここでは割愛します)
赤字のお店では、“いくら売ったら黒字になれるのか”、利益が出ているお店では“赤字になってしまうまでには、まだどの位バッファがあるのか”を理解したうえで、現状分析→課題抽出→改善策検討を行うと、目標設定がしやすくなります。
また、損益分岐点が計算できたら、曜日や月初・月末を考慮して、1日当たりの損益分岐点売上高を求めてください。平日は10万円、金土日は15万円といった感じです。
さらに日ごとの損益分岐点売上高を平均客単価で割ることによって、“損益分岐点客数”が計算できます。損益分岐点売上高が10万円で客単価が5,000円でしたら、100,000円÷5,000円=20人が損益分岐点の客数となります。つまり、19人までしか集客できなければ赤字、20人以上集客ができれば黒字となります。
レジ横にでもメモ帳とペンを置いていき、お客様がご入店されたら“正”の字になるように書いてカウントしていきましょう。
仮に20名が分岐点の日に20:00現在で集客15名だったとしましょう。
あと5名の集客で分岐点クリアなので、手の空いたアルバイトさんに店前に出てもらい、歩いている方に声がけして集客するなどの手が打てます。これが22時過ぎだったらいかがでしょう?ホールリーダーの方は、もうこれ以上の集客はあまりできないと判断して、今店内にいらっしゃるお客様に“もう一杯、もう一品”のおススメをするようにホールスタッフに声がけするようにしていただきたいのです。
客数が目標達成しなそうなら、客単価でカバーするしかありません。損益分岐点客数を把握していれば、簡単に目標への達成度合いが測定できます。
これが店舗管理の目標設定の一例です。
可能な限りシンプルで測定しやすい数値で目標設定する。現場のスタッフに受け入れやすい方法で目標数値を伝えなければ、目標は絵に描いた餅になってしまいがちです。
誰でもわかる目標設定が店舗管理のポイントとなります。
読んでいただいた皆さんのお店がご繁盛しますよう祈念しています。