経営
2025/06/19
料理の腕や接客に自信があるだけでは、飲食店経営を成功に導くことはできません。飲食店経営におけるさまざまな数字を管理する必要があるのです。
そこでこの記事では、飲食店経営の基本となる考え方や知識、指標を徹底解説していきます。
「飲食店経営に必要な基本知識として何を学ぶべき?」
「飲食店経営で分析に役立つ基本的な指標を知りたい」
「飲食店を経営する前に押さえておくべきこととは?」
上記のような悩みをお持ちの方は、ぜひ最後まで読み、経営の参考にしてください。
飲食店経営において、基本となる要素として「売上」「利益」「FLコスト」が挙げられます。それぞれが持つ意味と考え方を理解しておきましょう。
飲食店経営における売上とは客数と客単価の2つの要素に分かれるもので、どれだけ売上があるのかを示すものが「売上高」です。客数とは、1日あたり何人のお客さんが訪れたのかを表す数値、客単価とは1度に支払う1人あたりの金額を指します。
飲食店経営では「客数×客単価」という計算式で売上高を求められます。
売上に悩む場合は、客数または客単価の改善が必要ということがわかるなど、飲食店経営における重要な指標のひとつのため、必ず押さえておきましょう。
飲食店経営において最重要といわれる要素が「利益」です。利益とは、売上高から原価を差し引いたものです。飲食店にどれだけ売上があっても、最終的に利益が手元に残らなければ経営を安定して続けることはできません。
なぜなら、利益がなければ十分な人数の従業員をシフトに入れられなかったり、商品の質を落とさなければいけなかったりするため、結果的にお客さんへ満足なサービスを提供することができなくなるからです。
飲食店経営をこれから予定している方は、売上がそのまま手元に残るわけではないことを念頭に置いて事業計画をたてなければいけません。
飲食店を経営する際には「利益=売上高−経費」という計算式を覚え、最終的に残したい利益率と額を設定して、どれくらいの売上と経費が必要なのか、という考え方に基づいて計画を立てるようにしましょう。
飲食店経営における売上、利益をつくるために深く関わってくる要素がFLコストです。FLコストとは、食材費(Food)と人件費(Labor)を合わせた費用のことを指します。飲食店経営においてFLコストのコントロールは非常に重要視されており、売上高に対して60%以下が適正とされています。
健全な飲食店経営の目安のひとつとして「FLコスト60%以内」があるため、日々のコントロールを意識していきましょう。
売上高に対するFLコストの割合は「(食材費+人件費)÷売上高×100(%)」の計算式で算出できます。
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上記では、飲食店経営における基本的な3つの要素について解説しました。しかし、飲食店経営では3つの要素のコントロールに加え、日々の数値分析からより良い経営をおこなうための改善も必要になります。
以下では、飲食店経営に便利な経営指標についてご紹介します。
損益分岐点とは、売上高(収益)と人件費や食材費、光熱費などの経営にかかるコスト(費用)が等しくなる金額のことです。つまり、損益分岐点より売上が高ければ黒字、下回れば赤字になります。
飲食店経営をするときには損益分岐点を算出し、月ごと、年ごとなどで目指すべきひとつの目安として用います。損益分岐点の計算式は以下のとおりです。
損益分岐点の計算式:固定費÷{(売上高−変動費)÷売上高}
損益分岐点には「固定費」と「変動費」が大きく関係してくるため、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
変動費とは、売上に応じて金額が左右される経費のことです。変動費はアルバイトやパートへの給料や消耗品費などさまざまな費用が当てはまりますが、とくに代表的なものが「食材費」です。
たとえば、食材の仕入れは来客数が多いとたくさん必要になり、逆に閑散期は減少します。変動費は飲食店経営者の裁量によって大きく増減させることができる費用であり、日々の適切なコントロールによって適正な損益分岐点を維持できます。
固定費とは、飲食店の売上の増減に関係なく一定金額で発生する費用を指します。まったく変動がないわけではありませんが、長期的に見ると増減がない費用をイメージしてください。
飲食店経営においては、店舗の家賃や光熱費、通信費、フランチャイズ経営の場合はロイヤリティも当てはまるでしょう。
固定費は変動費と違い、いくら飲食店の売上が下がっても簡単に調整できる費用ではないため、開業時の交渉や計画がとくに重要になります。
飲食店経営の分析に役立つ指標のひとつとして「客席回転率」も欠かせません。客席回転率とは、1席に対してお客さんが何回入れ替わったかを表すもので、計算式は以下のとおりです。
客席回転率:1日の来客数 ÷総客席数
たとえば、店内に50席ある飲食店で1日に200人の来店があった場合は「200÷50=4」となり、4回転したことになります。
回転率が高ければ高いほど売上は増加するため、数値を上げるためには注文から提供までの時間や注文を伺いにいく時間を短くする、バッシングをスムーズにおこなうなどの工夫が必要です。
ただし、客席回転率を上げれば良いというわけではありません。カフェや喫茶店のように店内でゆったり過ごしたい方は、スピーディーな料理提供や食べた食器を次々下げられることは求めていないでしょう。
飲食店のコンセプトに沿ったサービスを重視したうえで、適切な回転率を設定することが重要です。
飲食店の回転率についてはコチラ
人事売上とは、従業員1人につき1時間あたりどれだけの売上があるかを示す指標です。もちろん飲食店の規模やジャンルによって異なりますが、4,000〜6,000円程度が一般的な人事売上と言われています。
人事売上高:売上高÷総労働時間
1日の売上が20万円あり、従業員5名で8時間ずつ労働があった場合、総労働時間は40時間となるため、以下の計算式が成り立ちます。
20万円÷40時間=5000円
この場合人事売上は適正値の5000円であるため、大きな改善は必要ないことがわかります。定期的に人事売上を確認することで、適切な人員配置や改善点が見えてくるでしょう。
ここまでは、飲食店経営における要素や分析の指標について解説しました。最後に、飲食店経営の基本である、開業時に必要な資格や申請・資金についてご紹介します。
どのジャンルの飲食店経営を始めるにしても、必ず必要になる資格が以下の2つです。
食品衛生責任者
防火管理者
飲食店経営をおこなう場合は常に食品衛生を管理する必要があるため、その責任者として食品衛生責任者を設置することが義務付けられています。食品衛生責任者は、飲食店の規模や業種問わず必須な資格であり、無資格での飲食店経営は認められていません。
各自治体が定期的に開催している食品衛生責任者の養成講習を受講することによって資格を取得できるため、事前に計画立てて受講しましょう。
防火管理者は飲食店内の収容人数が30名以上の場合に設置が義務付けられている資格で、食品衛生責任者と同じく講習を受けることによって取得できます。「収容人数」が指すのはお客さんだけでなく、従業員も含まれることを覚えておきましょう。
飲食店経営をする場合は、営業開始までに防火管理者が必要かどうかの確認も忘れてはいけません。
飲食店経営を始めるときには、資格取得だけでなく関係各所へ必要な申請や手続きを進めなければいけません。飲食店経営に必要となる、基本的な申請や手続きを以下にまとめました。
届出 | 対象店舗 | 提出先 |
---|---|---|
食品営業許可申請 | すべての飲食店 | 保健所 |
防火管理者選任届 | 収容人数が30名以上 | 消防署 |
火を使用する設備等の設置届 | 火を用いる設備の設置がある | 消防署 |
風俗店営業許可 | 接待行為をおこなう | 警察署 |
深夜酒類提供飲食店提供届 | 深夜12時以降にお酒を提供する | 警察署 |
そのほか、開業自体が初めての場合は、開業届を税務署へ提出する必要があります。各申請は提出してすぐに承認されるわけではないため、営業日に間に合うように余裕を持って手続きをおこないましょう。
飲食店を経営するにあたって、必要な資金について把握しておくことも非常に重要です。飲食店経営を始めるために知っておきたい資金は「開業資金」と「ランニングコスト」です。
開業資金は文字通り開業にあたって必要な資金を指します。飲食店経営をするには店舗取得や厨房設備の設置、開業の宣伝などさまざまな準備を進めければいけません。
また、開業直後は思ったように売上が伸びないケースも多く、その期間に対応できるようにランニングコスト(運転資金)も用意しておくべきです。
開業資金やランニングコストの目安は飲食店の規模や業種によって異なるため、具体的にどのくらい必要なのか分からず不安に思っている方も多いのではないでしょうか。
そういったときにおすすめしたいのが税理士への相談です。資金面でのプロに相談し不安を解消して、安定した飲食店経営を叶えましょう。
ここでは、飲食店経営がなぜ難しいと言われるのか、その背景にある複数の要因についてご紹介します。
一般的に、「定食屋や食堂などの経営は難しそう」と考える人が多いのは、いくつかの明確な理由が存在するためです。飲食店経営が難しいとされる理由を理解しておくことは、これから飲食店経営を志すうえで重要となります。
なぜなら、事前に困難な側面を認識しておくことで、適切な対策を講じ、成功への道筋を描きやすくなるからです。
食堂の経営が多い理由の一つに、参入障壁が比較的低いことが挙げられますが、その反面、多くのライバルが存在することは避けられません。
ライバルや競合店が多いことで、顧客の獲得競争が激化し、見込んでいた収入が得られなくなる可能性が高まります。
そのため、自身の店舗ならではの明確な強みや差別化戦略を持つことが、生き残るためには不可欠となります。
飲食業界全体として、慢性的な人手不足が課題となっており、特に中小規模の飲食店ではその影響が顕著に現れます。
アルバイトやパートスタッフの採用が難航するだけでなく、経験のある調理スタッフやホールスタッフの確保も容易ではありません。
また、採用できたとしても、労働条件や待遇面で不満が生じやすく、離職率が高い傾向にあるため、安定した店舗運営を行う上で大きな障壁となります。
飲食店では、食材の鮮度管理が非常に重要であり、仕入れた食材を無駄なく使い切ることが求められます。
しかし、需要の予測が難しいことや、食材の保管方法が適切でない場合などには、食材が傷んでしまい、廃棄せざるを得なくなることがあります。
このような在庫ロスは、店の利益を圧迫する大きな要因となり、経営を困難にする可能性があります。
特に、個人経営や小規模な飲食店では、オーナー自身が調理から接客、清掃まで多くの業務をこなす必要があり、労働時間が長時間に及ぶことが少なくありません。
また、従業員数が少ない場合には、一人当たりの負担が増え、ワークライフバランスを保つことが難しい状況に陥りやすいです。
このような労働環境は、従業員の定着率を低下させるだけでなく、オーナー自身の心身の負担も増大させる要因となるでしょう。
ここでは、飲食店経営を成功させるための重要なポイントについて、以下の5つをご紹介します。
飲食店経営の困難を乗り越え、安定した経営を実現するためには、いくつかの重要な要素を押さえておく必要があります。
これらのポイントを理解し日々の経営に取り入れることで、お客様に愛され持続的に成長できる飲食店を目指すことが可能でしょう。
どのようなお客様に、どのような料理やサービスを提供したいのかを具体的に定めることが、他店との差別化を図り、ターゲット顧客を引きつけるための第一歩となります。
コンセプトが曖昧なままでは、メニューや店舗の内装、価格設定などが一貫せず、結果として誰にも響かない中途半端な店になってしまう可能性があります。
明確なコンセプトを持つことで、その後の経営戦略全体がスムーズに進められるようになるでしょう。
「コンセプトを明確に決める」上で重要なのが、「5W1Hを活用したコンセプト設計」です。
さまざまな要素を明確にすることで、ブレのない一貫したコンセプトを作り上げることができるでしょう。
自身の店舗の周辺にある競合店が、どのようなコンセプトで、どのようなメニューを提供し、どのような価格帯で営業しているのかを徹底的に分析します。
競合店の強みや弱みを把握することで、自店舗がどのような点で差別化を図れるのかが見えてくるでしょう。
単に競合店の真似をするのではなく、独自の強みを生かした差別化戦略を立てることで、お客様に選ばれる理由を作り出すことがポイントです。
具体的には、特定の食材に特化する、珍しい調理法を取り入れる、他にはないサービスを提供するなどが考えられます。
売上から原価や人件費、家賃などの経費を差し引いた利益を常に把握し、目標とする利益率を達成できているかを確認する必要があります。
食材の仕入れ価格を見直したり、無駄なコストを削減したりする努力も重要です。
また、メニューごとの原価率を把握し、価格設定を適切に行うことも、利益を確保するためには欠かせません。
どんぶり勘定ではなく、数字に基づいた経営を行うことが、安定した店舗運営につながります。
新規のお客様を獲得するための効果的な集客方法(チラシ、SNS、ウェブサイトなど)リピーターにつなげるための施策が重要なポイントとなります。
質の高い料理やサービスを提供することはもちろん、ポイントカードの導入、顧客情報の管理、季節ごとのキャンペーンの実施など、様々な方法でリピーターの育成を図りましょう。
安定した売上を確保するためには、新規顧客の獲得だけでなく、リピーターの存在が非常に重要となります。
お客様に満足していただける料理やサービスを提供するためには、質の高いスタッフの存在が欠かせません。
採用したスタッフに対して、必要な知識やスキルをしっかりと教育し、モチベーション高く働ける環境を整えることが重要です。
調理技術の向上だけでなく、接客スキルの研修、チームワークを高めるための取り組みなども効果的です。
スタッフの成長は、店舗全体の成長に直結するため、人材育成には積極的に投資しましょう。
飲食店経営の基本として押さえたい要素や分析方法、資格や申請について解説しました。
飲食店経営は料理や接客の腕が良いだけでは成功しません。経営について学び、その知識を活かして長年愛される飲食店をつくりましょう。