経営
2023/11/15
サラリーマンにとっては毎年の「年末調整」は欠かせない作業ですよね。しかし、飲食店を経営する個人事業主にも同様の手続きが必要なのでしょうか?
基本的には、個人事業主は毎年の年末調整を行う必要がありませんが、特定のケースではその必要性が生じることがあります。
この年末調整を理解せずにいると、必要な控除を見逃してしまい、気づかぬうちに損をしてしまうこともあるため、飲食店経営者はきちんと押さえておくことが大切です。
「飲食店を経営するにあたって年末調整について知っておきたい」
「飲食店を経営しているけど年末調整は必要なの?」
「年末調整っていつまで?どうやって進めれば良いの?」
今回は、飲食店を経営する個人事業主にとって不可欠な知識である年末調整について、基本的な概要を分かりやすく解説いたします。
年末調整は、主に所得税の過不足を正確に精算する手続きを指します。
通常、所得税は1月から12月までの1年間の給与やボーナスの総額に基づいて計算されますが、この額を一括して支払うことは負担が大きいため、企業は毎月の給与から所得税を天引きして源泉徴収を行います。
しかし、この天引き額は所得税が確定する前に概算で計算されるため、実際の所得税とのずれが生じるケースが多いです。
例えば所得税額は生命保険の支払いや結婚、出産、離婚、就学、就職などのライフイベントによって変動するため、年末になるとこれらの変更を考慮して再計算し、精算を行います。その結果、天引きで支払った税金よりも確定した所得税額が少ない場合は、過払い分が返金されます。
この一連のプロセスを年末調整と呼び、1年間の源泉徴収を再計算し、所得税を最終的に確定させることを指します。これにより適切な税金が納められ、過不足が調整されるため、給与受け取り者にとっては重要な手続きなのです。
個人事業主の場合、年度末には確定申告を行い、所得が確定されて所得税額が算出されます。そのため、基本的には年末調整が必要ありません。ただし、以下に挙げるケースに当てはまる場合は、年末調整が必要となります。
年末調整が必要なケースの一つは「個人事業で従業員を雇っている場合」です。
個人事業主であっても、アルバイト・スタッフや正社員などの従業員が在籍している場合、給与を支払っていることから年末調整が義務となります。
この場合、雇用形態や従業員の属性(主婦、学生、未成年者など)に関わらず、給与を受け取る者は「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している場合が年末調整の対象となります。
経営者や個人事業主は、これらの従業員に対して源泉徴収を行い、年末になるとそれに基づいて調整が必要です。
年末調整が必要なケースのもう一つは「副業収入がある場合」です。
自営業者や個人事業主であっても、副業としてアルバイトやパートをしている場合、その収入は給与所得として扱われ、年末調整が必要です。
年末調整が完了した後、受け取る源泉徴収票は確定申告時に必要となります。
飲食店が「副業」の場合、年末調整は本業の会社で行います。ただしこの場合、本業の会社が調整するのはその会社の所得に限られます。副業の年間所得が20万円を超える場合、副業分については個別に確定申告が必要となりますので注意が必要です。
20万円以下の場合は確定申告が不要です。収入の範囲に応じて適切な手続きを行いましょう。
最後は「青色事業専従者に給与支払いがある場合」です。
通常、個人事業主は自身や家族への給与を必要経費として計上できませんが、青色申告者の場合は、特例として配偶者や親族に支払った給与を経費として認められています。これらの配偶者や親族を「青色事業専従者」と呼びます。
青色事業専従者も、アルバイトや会社員と同様に給与所得者であるため、年末調整が義務付けられています。
このシステムは節税の効果が高いため、まだ活用していない場合は積極的に導入することを検討してみましょう。
年末年始は飲食店にとって通常でも忙しい時期であり、余裕をもって年末調整を進めることが重要です。
焦らないようにするために、年末調整のスケジュール感を再確認してみましょう。
11月に入ると、年末調整のスケジュールが始まります。まず、11月下旬までに従業員に向けて年末調整が行われる旨をアナウンスしましょう。
年末調整には、従業員に記入してもらう書類が必要です。11月下旬には、税務署から以下の書類を従業員の人数分取得し、従業員に配布する必要があります。
この書類は、世帯内の扶養家族の異動を申告するためのものです。
例えば、出産育児に一段落がついた従業員が働きに出ることで夫の扶養を外れたり、逆に退職後に家族の扶養内で働くことに決めた場合などが対象です。
様々な控除の確定に使用される重要な書類で、2016年からはマイナンバーの記載が必須となっています。従業員にもこの点を含めて周知しましょう。
これらの書類は、保険料の控除と配偶者特別控除の申告を行うものです。
特に配偶者のいる従業員にとっては重要な書類となりますので、雇用側からは明確な指示を出すよう心掛けましょう。
転職者に関しては、前職の源泉徴収票の提出が必要です。源泉徴収票の発行には企業によって時間がかかる場合もあるため、できるだけ早めに従業員に依頼しましょう。
12月に入り、従業員から提出された書類が揃ったら、年末調整の次のステップとして所得税の計算および確定作業に入ります。
所得は、1年間の給与収入から給与所得控除を差し引いた金額で算出されます。
給与所得控除は年間の給与収入に応じて異なります。
例えば、年間の給与収入が330万の場合、給与所得控除は330万×30%+ 18万=117万。従って、給与所得は330万-117万=213万となります。
この所得に基づいて、提出された書類を元に各種所得控除額を差し引きます。配偶者控除や扶養控除の他に、基礎控除や住宅ローン控除なども考慮されます。
そして、確定した所得税額を年間の源泉徴収税額と比較し、過不足がないか確認します。
所得税が多い場合は従業員に還付され、逆に少ない場合は新たに徴収される可能性があり、これに伴って12月の給与に上乗せまたは差し引かれることが一般的です。
所得税の計算が終了したら、次は税務署へ提出する書類を作成していきます。必要な書類は以下の3つです。
外部の専門家に年末調整の作業を委託した場合は、その報酬に関する「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」も提出する必要があります。
これらの書類は翌年1月10日までに税務署へ納付するようにしましょう。
同時に、1月31日までに源泉徴収票を発行し、各従業員に手渡す必要があります。
注意が必要なのは、源泉徴収票は従業員1人につき4枚発行しなければならない点です。1枚は従業員本人用、もう1枚は税務署提出用、残りの2枚は市区町村への提出用です。
同様に、1月31日までに市区町村に給与支払報告書を提出しなければなりません。加えて、税務署には法定調書合計表を提出する義務もあります。
年末調整の流れがわかったところで、最後に実施時のポイントを押さえておきましょう。少しでも正確に、かつ負担を減らせるような工夫が大切です。
年末調整の手続きには紙ベースの申請のほか、近年推奨されている電子申請の2つの方法があります。
年末調整には多くの書類が必要で、雇用主や従業員にとって手間がかかる手続きです。しかし、電子申請を活用することで紙媒体のやり取りがなくなり、手続きが簡素かつ効率的におこなえます。
書類の配布や回収にかかる手間や時間が省かれるだけでなく、従業員が年調用ソフトを使用して書類を作成するため、誤記入などが減り、確認や問い合わせの事務負荷が軽減されます。
電子申請の導入により、年末調整の手続きがより効率的かつスムーズに行われるため、飲食店経営者と従業員の負担軽減に役立つでしょう。
年末は忙しく、個人事業主にとっては年末調整や確定申告が重なり、仕事に支障が出ることがあります。このような状況でおすすめなのが、年末調整の代行を税理士に頼むことです。
税理士には年末調整の代行が法律上認められており、プロの手に委ねることで手間や時間の節約が可能です。税理士に年末調整を依頼することで、税務関連のプレッシャーから解放され、本業に専念できる利点があります。
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飲食店経営者が知っておくべき「年末調整」について解説しました。
年末調整は所得税の過不足を正確に精算する手続きで、毎月の源泉徴収から生じる所得税のずれを調整します。
特に個人事業主の場合、所得が確定される確定申告を行うため、基本的には年末調整は必要ありませんが、従業員を雇ったり副業収入がある場合は異なります。
正確かつ効率的な年末調整をおこない、飲食店経営者と従業員の負担を軽減しましょう!