飲食店の運営はオーナーだけではなく、スタッフの力が欠かせません。しかし、近年はハラスメントに対する意識が高まり、従業員のモチベーションを損なわず、成長を促す指導が求められています。
そのため、以下のような悩みを抱えている飲食店経営者や店長が多いのではないでしょうか。
「飲食店のスタッフをうまく褒めて育てたい」
「パワハラと捉えられることなく指導したい」
「飲食店のスタッフの褒め方・叱り方のポイントを知りたい」
そこで今回は、飲食店スタッフの成長を促すための適切な「叱り方」「褒め方」について紹介します。
飲食店スタッフへの褒め方・叱り方の重要性
飲食業界では人手不足が深刻です。そのため多くの経営者や管理職は「スタッフの離職を恐れて叱れない」状況になっています。
また、自身が適切なほめ方を学んでいない場合もあります。
しかしスタッフ育成には、適切な「ほめ方」と「叱り方」が不可欠です。まずはその重要性を理解しましょう。
フィードバックの意味がある
飲食店スタッフの育成において、「ほめる・叱る」は極めて重要です。これは、スタッフに対する「フィードバック」が含まれるためです。
「ほめる」は単なるおだてることではなく、スタッフの行動や努力に「感心」「感謝」「感動」を示すことを指します。一方、「叱る」は怒ることではなく、改善のための指摘や提案をおこなうことです。
バランスよくこの両方を行うことで、スムーズな人材教育を築くことができます。
従業員満足度の向上に繋がる
正しい褒め方・叱り方をすれば、従業員のモチベーション向上に繋がります。「ES（従業員満足度）なくしてCS（顧客満足度）なし」という考え方は飲食業界に限らず全ての業種に共通しているものです。
つまり、従業員が満足していなければ、顧客に満足のいくサービスを提供することはできません。
飲食店スタッフを正しく褒める・叱ることができれば、モチベーションが向上しお店全体のレベルアップに繋がるのです。
飲食店スタッフへの褒め方のポイント
「褒めるの大切さは理解しているけれど、具体的にどこを褒めたらいいのかわからない」という方も多くいます。ここでは、そんな方でもすぐに役立つ、具体的な褒めるポイントをご紹介します。
過程や姿勢を褒める
成果が出た時はもちろんですが、スタッフが自主的に行動したり、勇気を示したりした場合は、その行動を褒めましょう。そうすることで、彼らのやる気が高まり、ポジティブなエネルギーが生まれます。
例えば、「混乱した状況でリーダーシップを発揮した」「困っている人を率先して助けた」「責任を負う必要があるときに主導的に行動した」といった具体的な行動を褒めます。
このような努力を認めることは、スタッフにとって大きなやる気の源になります。指導者が努力を認めることで、スタッフとの信頼関係が築かれます。
平等に褒める
スタッフ全員の良い点を見つけることは、チーム全体のモチベーションを高める重要なポイントです。誰しもが褒められることで、自分の努力が認められたと感じ、仕事に対するやる気が増します。
一人ひとりの成長や取り組みを見逃さず、適切なタイミングで褒めることで、スタッフ同士の信頼関係も深まります。
これによって、チーム全体がより協力的になり、より良いサービスを提供することができるでしょう。
従業員の前で褒める
スタッフが集まる場で褒めることは、皆が互いに良いところを見つけ合う効果があります。
褒めることで、褒められた人はもちろん、他のメンバーも自分も褒められたいと思う気持ちになり、仕事へのやる気がアップします。また、褒められることで自信を持ち、チーム全体のモチベーションが向上します。
ただし、誰もが注目を浴びることを好むわけではないので、日常的に褒める文化を育てることが大切です。
具体的に褒める
「いいですね」といった抽象的な言葉ではなく、具体的な評価や尊敬の対象を伝えることが大切です。
相手が何をしたのか、それがどう素晴らしいのかを具体的に伝えることで、相手も喜び、信頼感や親しみが生まれやすくなります。
汎用的な表現ではなく、具体的な行動や成果を褒めることで、相手に自分の言葉で感想や感動を伝えることが重要です。
飲食店スタッフへの叱り方のポイント
「叱る」は、他者の成長を促し、問題点や改善点を指摘して行動の向上を促すものです。しかし、注意が必要なのは、「叱る」としても相手が「怒られた」と受け取る可能性があるということです。
相手の受け取り方を考慮し、叱り方やコミュニケーション方法を慎重に選ぶ必要があります。
まず褒めてから叱る
マネジメントにおいて、Yes→Bad→Forテクニックは、良い成果や行動に対してまず肯定的なフィードバックを与え、その後に改善が必要な点を伝える手法があります。
まず、スタッフの優れた業績や取り組みを褒めることで、彼らの自尊心やモチベーションを高めます。次に、改善が必要な箇所や課題を指摘しますが、その際にはポジティブなアプローチを心がけます。
例えば、「いつも素晴らしい仕事をしてくれてありがとう。ただ、この部分はもう少し改善の余地がありそうだね」といった具体的なフィードバックを行います。
これにより、スタッフは自身の強みを認識しつつ、成長のための方向性を示すことができます。
冷静に叱る
叱ることは、部下の成長や改善を促すために必要な行為です。
しかし、感情的になると叱るどころか怒ることになりかねません。感情の爆発は部下を驚かせ、彼らが指示に集中できなくなります。指摘の内容を理解することなく、問題の改善も望めません。
さらに、感情的な攻撃を受けた部下は、上司に対する不信感を抱く可能性があります。信頼関係が崩れると、コミュニケーションが困難になります。
したがって、叱る際は冷静さを保ち建設的なフィードバックを提供することが重要です。
極力1対1の状態で叱る
スタッフを人前で叱ると、彼らは恥ずかしさや不安を感じ、自信を失うことがあります。その結果、彼らはリスクを冒すことを避け、積極性を失うかもしれません。
また、他のスタッフも同様の扱いを恐れてしまい、行動が制約されるかもしれません。
叱る場合は、プライバシーを確保できる別室などに移るなどし、なるべく人前での叱責は避け、周囲に影響を与えないようにすることが重要です。
理由を伝えて叱る
叱る理由と期待する行動を明確に伝えることで、叱られた側が理解しやすくなります。
具体的な理由を伝えることで、場合によっては認識のズレが解消され、円滑なコミュニケーションが促進されます。ただし、叱る際は相手の行動や言動に焦点を当て、その人格や価値観を攻撃しないよう注意が必要です。
注意したい飲食店スタッフへの褒め方・叱り方
スタッフを指導しているつもりがパワハラになってしまっていたり、相手を褒めているつもりがセクハラになっていたりと、気づかないうちに相手に不快感を与えているケースもあります。
無意識にハラスメントをおかさないためにも、以下の注意点を押さえておきましょう。
容姿を直接的に指導しない
容姿を褒める場合、相手の雰囲気を褒めましょう。
例えば、「爽やかな服装ですね」とか「上品な印象が素敵です」というように、外見に関するポジティブな感想を述べることで、相手の容姿に対する肯定的な印象を伝えることができます。
一方「かわいい」「綺麗」など直接的に容姿を褒めることはセクハラと捉えられることも少なくありません。
また、飲食店スタッフには清潔感も求められます。かといって「汚い」という直接的な言葉で指導してしまうと、相手の肯定感を下げるリスクがあります。
店舗の身だしなみルールを確立し「身だしなみルールにあるように、食事の邪魔になるような強い香水は避けてね」「異物混入の可能性があるから揺れるピアスは外して勤務してね」など、納得できる指導をおこないましょう。
人と比較しない
職場で他人と比較される経験は、多くの人が持っているかもしれませんね。
「〇〇さんはできているのに〜…」や「△△さんが2年目の時は〜…」というように、他人と比較して叱ることは、反発心を生み逆効果になることがあります。また、人格や性格を否定されたりする可能性もあります。
「叱る」の目的は、相手の問題や課題を改善し、成長を促すことです。そのため、他人と比較することは意味がありません。叱る際は、個々の問題に焦点を当てて向き合いましょう。
抽象的な言動は避ける
褒める・叱る場面に限らず、抽象的な言葉を使っての指導は避けるべきです。具体的な行動や要求を伝えるように心がけましょう。
例えば、「もっと」「ちゃんと」「しっかり」といった抽象的な言葉を使うと、相手は具体的に何をすれば良いのか理解しにくくなります。
「もっとしっかりやってほしい」と指摘されても、具体的な改善方法がわからなければ、問題の解決や修正が難しくなります。
飲食店スタッフを指導する際は、抽象的な言葉ではなく、具体的な行動や要求を伝えるよう心がけましょう。
まとめ
飲食店の経営において、スタッフの育成とモチベーション維持は重要な要素です。適切なフィードバックを通じて、スタッフの成長を促し、ハラスメントを避けながら的確な指導を行うことが求められます。
今回の解説では、飲食店スタッフの成長を促すための「褒め方」と「叱り方」に焦点を当てました。
具体的な行動や努力を褒め、冷静な状態で叱ることが重要です。抽象的な言葉や他人との比較は避け、容姿を褒める際もセクハラにならないよう注意しましょう。
従業員の成長と満足度を考えた指導を行うことで、飲食店全体のレベルアップにつながります。信頼関係を築きながら適切なフィードバックを提供し、スタッフの成長を支援することが、持続可能な経営の鍵となるでしょう。
