経営
2022/08/08
2023年10月に開始が予定されているインボイス制度について、飲食店にどのような影響を及ぼすか解説します。インボイス制度は、適格請求書などの保存を仕入税額控除の新たな要件とする制度です。今回の記事では飲食店を経営している皆様がインボイス制度について思う疑問
「飲食店とインボイス制度の関係は?」
「インボイス制度は飲食店にどんな影響がある?」
「飲食店でインボイス制度の準備には何が必要か知りたい」
について徹底解説します。是非この記事を参考にインボイス制度の対策をしましょう。
インボイス制度は2023年10月1日よりスタートする消費税の仕入税額控除の仕組みです。まずはインボイス制度について解説していきます。
インボイス制度の正式名称は「適格請求書等保存方式」と言います。インボイス制度は、今までの「請求書等保存方式」に代わる消費税の仕入税額控除方式です。今までの「請求書等保存方式」では、売上にかかる消費税から仕入にかかる消費税を控除するには、区分記載請求書等と帳簿の保存が必要でした。
インボイス制度では区分記載請求書等の代わりに適格請求書の保存が必要となります。適格請求書については次の項目で詳しく解説します。
適格請求書(インボイス)に記載しなければならない項目は以下となります。
①適格請求書発行事業者名および登録番号
②取引年月日
③取引内容(軽減税率の対象品目は※など印をつけて判別できるようにする)
④税率ごと(8%・10%)に分けた合計額(税抜きまたは税込み)と適用税率
⑤税率ごと(8%・10%)に分けた消費税の合計額
⑥発行先の事業者名
※①④⑤が現在の区分記載請求書から変更となる。
特に①の適格請求書発行事業者が今回のインボイス制度においてのポイントとなります。適格請求書発行事業者になるには、課税事業者であること、税務署に適格請求書発行事業者の登録申請をしていることが条件としてあります。
条件があることにより適格請求書は誰でも発行できるわけではなく、条件を満たした事業者が発行できるというところがポイントです。
インボイス制度が開始する2023年10月1日に適格請求書を発行するようにするには、2023年3月31日までに登録申請が必要です。
2019年10月1日より10%と8%の複数税率ができたことにより消費税納税の不正や取引の不透明さを防止する目的から、インボイス制度が導入されることになりました。現在の区分記載請求書は、インボイス制度移行期間中の特別措置的なものであるため、適格請求書発行事業者の登録や、税率ごとに分けた消費税の合計額の記載までは義務化されていないことが挙げられます。
しかし、インボイス制度が導入された後に適格請求書を発行するには、「課税事業者であること」と「税務署に適格請求書発行事業者の登録申請をしていること」の条件を満たす必要があります。
「飲食店にインボイス制度は関係ないのではないか」と考える方も少なくありませんが、飲食店の業務は軽減税率と標準税率の両方を扱うことが多く、インボイス制度への対応が積極的に求められる業種です。飲食店が課税事業者、もしくは免税事業者に当てはまるかでインボイス制度への対応が異なります。
免税事業者は、買手から預かった消費税額の申告と納付の義務が免除された事業者のことを言います。1年間の課税売上高が1,000万円以下の事業者は消費税納税の義務がなく、今までは消費税を受け取っても納付しない益税が可能でした。
インボイス制度導入後も自社と取引先がお互いに免税事業者等の場合は、従来の取引と何も変わりません。ただし、取引先が適格請求書発行事業者となった場合、取引が減ったり打ち切りになったりする可能性があります。
飲食店の場合は、顧客が一般消費者相手のみであれば、適格請求書発行事業者とならないといった選択も可能です。ただし、接待交際費などで利用される飲食店の場合は、仕入税額控除の適用が出来なくなるため、利用を控えられる可能性があります。
課税事業者は買手から預かった消費税額を税務署へ申告し納付を行う事業者のことを言います。もともと課税事業者だった飲食店の場合は「適格請求書発行事業者の登録申請書」を所轄の税務署へ提出すればインボイスを発行できるようになります。ただし免税事業者から課税事業者になった場合、免除されていた消費税申告と納付の義務が発生するので注意が必要です。
基準期間または特定期間の間で課税売上1,000万円超となった事業者が課税事業者に該当します。基準期間、特定期間は、個人事業主と法人で異なります。(特定期間は課税売上から支払った給与額に代えることも出来ます。)
基準期間:前々年の1月1日~12月31日
特定期間:前年の1月1日~6月30日
基準期間:前々年の事業年度
特定期間:前年の事業年度開始以後の6ヶ月間
インボイス制度に登録するかしないかの判断は「任意」であり、義務付けられるものではありません。特に課税売上高が1,000万円以下である場合は慎重な検討が必要です。インボイス制度が飲食店に与える影響の大小は、各店舗ごとの「メインの顧客」によって変動します。
ここでは、免税事業者の飲食店にインボイス制度が与える影響についてご紹介します。
インボイス制度は、課税事業者が、課税事業者から適格請求書を受け取る制度です。経営している飲食店の利用客が、一般消費者のような個人客がメインの場合、インボイス制度の影響は少ないと考えられます。
ただし、一般消費者のなかに課税事業者が含まれる場合があることも考えなくてはなりません。接待利用のお客さんが多く来店する飲食店などが挙げられます。このような場合、免税事業者のままでは客足に響き、売上に影響が出る可能性があります。
具体例を挙げると、課税事業者が、免税事業者の飲食店での経費を「接待交際費」として計上した場合、このときの消費税は仕入税額控除の対象になりません。そのため、一般消費者のような個人客をメインにしていても敬遠される可能性が少なからずあります。
主な顧客が課税事業者である場合は、免税事業者であってもインボイス制度から間接的な影響を受けると考えられます。理由は先ほどの項目でも説明したように、免税事業者が課税事業者から取引を敬遠されることが考えられるためです。これを防ぐには自身が課税事業者になることを検討したり、一定の値引きを自主的に行うなどの対応策が必要と言えます。
課税事業者は「適格請求書」を交付してもらえないと仕入税額控除を受けられないため、その分の仕入れ負担が増えてしまいます。免税事業者の飲食店は、課税事業者であるお客様を繋ぎ止める方法を検討する必要があります。
ここまでは課税売上高が1,000万円以下の免税事業者であっても、顧客の層によっては大きく影響を受ける可能性があることをご紹介しました。ここでは、インボイス制度によって飲食店が受ける影響には具体的にどんなことが挙げられるのかについて見ていきましょう。
飲食店のなかには、農家や個人経営の精肉・鮮魚店から食材を仕入れているケースもあるでしょう。インボイス制度が適用されると、仕入れ先が適格請求書発行事業ではない場合は仕入税額控除を受けることができなくなります。
仕入税額控除とは、お客さんから受け取った消費税額分の金額から、仕入れ先に支払った消費税額を差し引ける控除のことです。具体的に数値を用いて説明すると、仕入れ先から1,100円(消費税100円)で購入した食材を調理し、お客さんへ5,500円(消費税500円)で提供したとします。この場合、お客さんから受け取った消費税500円から仕入れ先に支払った100円を差し引き、400円を消費税として納めることができる制度が仕入れ控除です。
しかし、仕入れ先が免税事業者の場合は仕入れ控除ができないため、500円を消費税と納める必要が出てきます。仕入れ先が適格請求書発行事業なのか免税事業者なのかによって、支払う消費税額の差は大きく変動してくるため、仕入れ先によっては大きく影響を受ける飲食店も出てくるでしょう。
免税事業者だった飲食店がインボイス制度をきっかけに課税事業者になった場合は、消費税の申告と納税が発生します。これまでは、お客さんから受け取っていた消費税もそのまま売上として計上することができていました。しかし、課税事業者になるとその消費税額は売上ではなく「税金」として納める義務が発生します。
慣れない業務が発生し、しばらくは消費税の計算などに時間がかかる可能性があるため、早め早めの準備をしていきましょう。
経理業務も、インボイス制度の導入で大きく影響する作業のひとつです。特にインボイス制度開始直後は経理の事務作業が負担に感じることが懸念されます。仕入税額控除を受けるためには、インボイスの保存に加えて7年間の帳簿の保存も必須となります。
日々の請求書に関しても、インボイスかインボイス以外の請求書かの仕訳作業が発生し、導入前と比べて負担が大きく感じるかもしれません。
インボイスの記載条件に「書類の交付を受ける事業者」が含まれていますが、「不特定多数に対して営業を行う一定の業種」は事実上不可能なため、インボイスの内容を簡略化した「簡易インボイス」の発行が認められています。レシートについて詳細を解説します。
軽減税率対応のレシートとは、軽減税率8%・標準税率10%それぞれの商品・サービスが明確に区分されたレシートのことを言います。レシートを簡易インボイスとして発行する具体的な記載内容は以下になります。
①インボイス発行事業者の氏名または名称および登録番号(T+13桁の法人番号または13桁の数字)
②取引年月日
③取引内容
④税率ごとに区分して合計した対価の額
⑤「税率ごとに区分した適用税率」もしくは「税率ごとに区分した消費税額等」のどちらか
上記は簡易インボイスの記載事項となり、通常のインボイスの場合は「書類の交付を受ける事業者の氏名または名称」と「区分した適用税率と消費税額」の両方の記載が必要となります。
飲食店では、レシートの他にも手書きの領収書も記載事項さえ満たせば、簡易インボイスとして扱うことが可能です。ただし、手書きの領収書には以下のようなリスクがあります。
・数値や氏名を書き間違える可能性
・不正や改ざんが疑われる
・消費者との取引数が多いほど手書きでの対応が難しくなるなど
そのため特別な会計を除き、基本的にはレシートを簡易インボイスとして発行することを推奨します。
飲食店がインボイス制度に対応するためには、あらゆる視点から準備を進めていかなければいけません。最後に、インボイス制度が導入されるまえに検討すべきこと3つをご紹介します。
まずはじめに検討すべき内容は「インボイス制度の導入の有無」です。インボイス制度に登録するのか、それとも免税事業者のままでいるのか、という部分を決めないことには準備を進めることはできません。インボイス制度の導入は任意であるため、免税事業者のままで事業を継続することも可能です。
今一度、インボイス制度に登録するメリット・デメリットを比較していきましょう。免税事業者として消費税を納めなくていいというメリットと、適格請求書発行事業者になることで売上減少を防ぐことができるメリットのどちらの方が大きいのか、慎重に検討することが重要です。
先ほどもご紹介したように、インボイス制度が開始することで経理業務が複雑化・煩雑化することが予想されます。経理や事務作業の負担を少しでも軽くするために、適格請求書が発行できるPOSシステムやインボイス制度に対応している会計ソフトの導入を検討することがおすすめです。
インボイス制度に対応するために、POSレジや会計ソフトを新しく導入する場合に是非検討したいのが、助成金や補助金制度の活用です。例えば、クラウドシステムやITツールなどを導入する際に活用できる「IT導入補助金」や規模の小さな飲食店が効率よく店舗運営するための支援「小規模事業者持続化補助金」があります。
コストが気になって導入に踏み切れない方は、支援制度の利用を検討してみましょう。
飲食店の場合、インボイス制度が必要ではない一般商品者の個人客が多いため、インボイス制度への対応の有無が分からない場合があるかと思います。会社の接待などに利用される飲食店の場合、インボイスが発行されないことで飲食費を経費として計上できないことから、利用を敬遠されることが考えられます。
免税事業者の飲食店は、課税事業者であるお客様を繋ぎ止める方法を検討する必要があります。
FOODGYMでは今回のインボイス制度の他、飲食店の融資・資金調達といった経営に関するサポートを全面的におこなっています。
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